しばらくため込んでいたA誌とB誌のゲラ、どっちも今日中に終わらせて、とにもかくにも本日(木曜)発送で今週中の納品! としゃかりきになっていたそのまさにそのとき、玄関のチャイムが鳴った。「誰だ?」といぶかりながらドアを開けると、友人のnickの顔があってびっくり。彼女の乳癌手術以来だから、顔をみるのは2年半ぶりだ。nickの手には大きなナシの袋。nickの家とわが家の中間地点あたりがナシの産地で、直売場がオープンの時季になったらしい。
どうぞとも言われぬうちに思わずナシを受け取って、「やせたね」「うん」「太ったでしょ」「うん」とやり取り。手術の前はほぼ同じ体重だったのだけど、2年半でお互いが中央値から反対側に遠ざかってしまった。
しかし、そのnickの突然の来訪を受け止める包容力が、この私にはない。ゲラはどうしたってこの日発送せにゃならない状況だ。「ごめんっ、きょうはあげてやれないわ」「わかってる、何せ突然きたんだもの」
nickの滞在時間はほんの数分。ジャム1びんと夫の仕事場から新作飯椀をつかんできてnickに。車を買い替えたけどちっとも乗っていなくて、もう少し遠出するようにと整備の人に言われていたはず。思い切ってこっちまで出てきたんだろうなあ。nickごめん!
と、あたふたしたのはきのうのこと。「今週中」が片付いたきょうは、雑誌優先でずっと先送りしにしてきた単行本の初校少しと原稿整理ができる。単行本は時間さえあれば、思い切って原稿に手を入れたり、見出しを楽しんでつけたりと自由度大で気持ちよく仕事ができるのだ。
「急かさない」ことを条件にして受けた仕事なんだけど、担当Kさんは本当に何も言ってこないので、ときどき不安になる。それにあまり先延ばししすぎると、納本が先になり支払いも遅れるわけで、結局「自分に」急かされる。Kさんはそのあたり、ちゃんと読んでいるのか。
とはいっても金曜日の今日は特別な日。メールでの納品もないし、ゲラを広げてもついつい「明日でもいっか」なんてことで、気が緩んで…。
この間まで読んでいた梨木果歩の『村田エフェンディ滞土録』はまるでマンガのような妙なおとぼけ感があって「ああ面白かった」だったんだけど、読み終わってしまったらなんだかつまらない。好きなおやつをみんな食べてしまったような気分。さて次は何にしよう? ということで、夫がこの間まで読んでいたポール・オースターの『偶然の音楽』を、どらどら、どこがそんなに面白いのよ…と風呂上がりにパラパラしてみる。気づくとパジャマも着ずに読みふけっていた…のがおととい。きのう夕食後と寝しなに読んで、さっき昼食後にまた読んで、ついつい加速がついてしまって、ゲラを置いてほんの少しブレイクのつもりだったのに結局最後まで読みあげてしまった。そうか、そういうことだったか。終わりまでぐいぐいとひきつけられて読んだんだけど、パタンと本を閉じてみたら「面白かった」というのとはなんか違う。ビミョウ。
さて、またゲラに向かいますか。初校のあと、たまっている原稿整理を一気にやって終わらせちゃったら、営業のKさんびっくりするだろうな、サービスしてみようかな、なんて、想像してみるだけで心が少し浮き立つ。雑誌だと早くてあたりまえなので、誰もほめてくれないのだけど、このKさんはいいタイミングで電話してきて、人をちょっとだけくすぐってくれる。
ゲラに向かいながらも、nickが来たのがきのうじゃなく今日だったら、夫とこだまに好評の「きなこたっぷりかけドーナツ」なんかつくってあげることもできたのにな…「まだ予定をたてて行動するのがダメ」といっていたけれど、直前でいいから来るときは電話入れてくれないかな…でも毎回同じこと言ってるけど、ほとんど連絡してきたことないな…nickってそういうヤツなんだな、昔っから…(高1のときのnickの顔が頭に浮かび)そんな前のことだと思えないのに、何十年が経ったんだ? とつらつら。これじゃ仕事になりません。
誕生日には「絶対にエレキギターを買う!」はずだった夫。結局まだギターを手にしていない。それがきのう五木ひろしがフェンダーの何とかを弾いているのをテレビでみて、いよいよ気持ちが動かされたらしい。「あの」「演歌の」「五木ひろし」だぜ、なぜこの俺が持っていないんだ? と。ギターだけじゃなく「フリューゲルホーン」も買う予定らしい夫。命のリミットまでに、なんとか買って音を出してくださいまし。
1日1食にして買ったギター、初給料のフルート、人生変えるはずの機織り機、どうしても本物をのピアノ、これがあれば素晴らしいものがきっとの蹴ろくろ、40歳記念のアルトサックス…今はしばし眠っているわが家のあれやこれや。こういうものがいつか役に立つ日が…来るのかは、ヒジョーに怪しい。
まあね、人生なんて無駄の連続だよね。最後は本人そのものがいなくなるんだから。何でもかんでもやりたいことは生きてるうちに!
さて、いただいたナシでも食べよっかな。