Tさんの80回目の誕生日が近づいて、プレゼントをどうしようかずっと気になっていた。といっても、いままでは互いに誕生日にプレゼントをやり取りする習慣などなかった。いやそれどころか、彼女は私が誕生日を知っていることすら気づいていないはずだ。ちょっとした会話でなにげなく聞いたことがあって、「よおし、80歳になったらお祝いをしよう、びっくりするだろうな」と、ここ数年気をつけていた。
でも近ごろの彼女、白内障の手術のあと体調が悪くなって、口の中には炎症があって食べものがおいしくない、足がむくむ、思いもかけないトラブルが次々出てくる、どうなるか心配で外にもなかなか出る気になれない…と、電話ではこんな話ばかりが続いていたのだ。かかりつけ医が手配してくれた訪問看護医の1人は、人生のタイムリミットについても言及したようで、気丈な彼女もさすがに落ち込んでいた。
こんなとき、いったいどんな風にお祝いをすればいいんだろう。考えても考えてもなかなかいいアイディアが浮かばない。ただ、「思いっきり役に立たないものにしよう」とは思っていた。でもねえ、音楽や絵に造詣の深い彼女のこと、なまじなものではケチがつきそうで、なかなかコレというものが思いつかない。
気がつけば誕生日3日前。直接届けることはできないので、ネットで手配するなら今日がリミットねと心を決めた。お花でいこう! 気に入ろうが気に入るまいが、これなら10日もすればなくなってしまう。瞬間の喜びだけ、届けられればそれでいい。
とはいっても、ネットで検索すると「なんとかフローリスト」だの「なんとかーピット」だの、いろいろ出てくるのだけど、アレンジメントとやらはどうもピンとこないし、高い蘭の類は論外、花束もシンプルなものが見つからなくて、どうもこれというのに出合えない。
それでも長いこと検索して見つけたのが、バラの花の生産者直送というもの。余計な包装や容器ナシの花束だけが選べるところって、いいかもしれない。
でも、最初の候補はギリギリ注文だと「色はお任せ」となってしまうとわかって断念。やっぱり色は大事なポイントよ。
執念で探してみたら、とうとう見つけた。
こちらの生産者なら色は選べるし午後1時までに注文すれば当日発送も可!だって。(CMする気は毛頭ないけど、花だけ贈りたい人のために情報としてリンクしました)
探せばあるものよのう…と嬉しくなって、オレンジのシンプル花束を注文してみた。夜中にネットで注文して、翌朝にはOKメールがきて、で、翌々日に発送の連絡があってお支払いはネットバンキングで…って、悩んだ割にはあまりにも簡単で、拍子抜けするじゃないの。
そして、誕生日当日。
着いたその1時間後、「kodamaちゃん!」と明るいTさんの声が届いた。生産者直送というのも、彼女の感覚にあったようで、めでたしめでたし。バラの花って、やっぱりもらうのがうれしいよね。